$ play ep29 — だい29かい の授業
#29 「慎重に見て」が効かないのはなぜ?— 基準は言葉で決める

まず結論
「慎重に見て」が効かない理由は、「慎重に」は方向性であって、基準ではないからです。
「もっと気をつけて」という方向性は伝わります。でも、「何を、どう見て、何を報告するのか」という中身が1つも入っていません。Claude Codeくんはその中身を自分で想像して埋めるので、みなさんの頭の中にあった「慎重に」とずれてしまいます。
では、基準はどう書けばいいのか。答えは3つです。
- 種類で書く — 「見つけたら教えてほしいもの(報告する種類)」と「見つけても黙っていてほしいもの(無視する種類)」の、2つのリストを書く
- 重大度には実例を添える — 「重い・普通・軽い」の名前だけでなく、段階ごとに例を1つずつ添える
- 間違った指摘(誤検知)が多い種類は、止めて、直して、再開する — 誤検知は「どうせまた間違いでしょ」と指摘全体を読み飛ばす原因になり、指摘への信頼を壊します。全部を止めずに、その種類の報告だけをいったん止めます
よくある3つの誤解
- 「『慎重に見て』って言えば、慎重に見てくれるんでしょ?」 — 人間なら、自分の経験から「この仕事で慎重にっていうのは、金額を二重で確認することだな」と中身を埋められます。Claude Codeくんも中身を埋めはしますが、みなさんの職場の経験ではなく一般的な想像で埋めるので、頼むたびに中身が少しずつ変わります。Anthropicのプロンプトの書き方のガイドでも、全モデル共通の基本のいちばん最初に「はっきり、具体的に頼む。あいまいなお願いから察してもらうのに頼らない」と書かれています
- 「『自信があるものだけ指摘して』って言えば、間違った指摘は減るでしょ?」 — Claude Codeくんの「自信がある」は自己申告で、間違った指摘でも自信ありげに言ってくることがあります。指摘の数は減るかもしれませんが、減ったのが正しい指摘か間違った指摘かは、みなさんの側からはコントロールできません。自信の度合いで絞るのではなく、種類で絞るほうが、欲しい指摘が確実に残ります
- 「指摘は、多ければ多いほど親切なんでしょ?」 — 逆です。30個の指摘のうち25個が的外れだと、残りの5個もちゃんと読まなくなり、その中の「総額が明細の合計と合っていない」のような本当に大事な指摘まで見逃しかねません。Claude Codeの公式のコードチェック機能(Code Review)も、見つけた問題を報告する前に「本当に問題か」をコードと照らして確かめ直す段階を挟み、間違った指摘を取り除いてから報告する仕組みになっています。間違った指摘が多いほど、正しい指摘まで読まれなくなります
「方向性の言葉」の一覧と言い換え表
次のような言葉は、どれも方向性であって、基準ではない言葉です。
- 慎重に/ちゃんと/しっかり/丁寧に/注意深く/重要なものだけ/自信があるものだけ/常識的に
使ってはいけない、という話ではありません。方向性の言葉のあとに、中身を足すのがポイントです。
| 方向性だけのお願い | 中身を足したお願い |
|---|---|
| 慎重にチェックして | 慎重にチェックしてください。具体的には、金額と期限と宛名を見て、違っていたら教えて |
| ちゃんと確認して | 数字の間違いと日付の間違いは報告して。言い回しの好みは無視していいよ |
| 重要なものだけ指摘して | 総額が明細の合計と合っていない・有効期限切れの2種類だけ報告して |
| 自信があるものだけ指摘して | 金額が合っていないものと、期限切れのものだけ報告して。表記の揺れは報告しないで |
| 常識的に見て | うちでは税抜の表示が基本で、税込の金額は備考に書く決まり。それ以外の書き方になっていたら教えて |
みなさんのお願いの中で、「慎重に」や「ちゃんと」と言っている依頼を1つ探してみてください。それが、種類のリストに書き換えてみるのに、一番向いている一言です。
報告する種類と無視する種類のリストの実例
見積書のチェックを頼むときの例です。
| 報告する種類見つけたら教えてほしいもの | |
| 金額 | 総額が明細の合計と合っていない |
| 期限 | 有効期限が過ぎている |
| 宛名 | 宛名の会社名が違う |
| 税 | 税込と税抜が混ざっている |
| 無視する種類見つけても黙っていてほしいもの | |
| 表記 | 全角と半角が混ざっている |
| 改行 | 改行の位置 |
| 言い回し | 言い回しの好み |
| 見た目 | フォントの違い |
無視する種類のほうも、ちゃんと書くのがポイントです。報告する種類だけを書くと、Claude Codeくんはリストにないものを見つけたときに迷って、念のため報告してきがちです。「これは無視していいよ」も書いてあれば、迷わずに無視できます。
頼むときの文にすると、たとえばこうなります。
この見積書をチェックして。
報告するのは、次の4種類だけ:
- 総額が明細の合計と合っていない
- 有効期限が過ぎている
- 宛名の会社名が違う
- 税込と税抜が混ざっている
次の種類は、見つけても報告しないで:
- 全角と半角の混在、改行の位置、言い回しの好み、フォントの違い
公式のコードチェック機能(Code Review)の設定の説明でも、同じ考え方が紹介されています。チェック専用の指示ファイル(REVIEW.md)に、「どの種類の指摘を重要(Important)として扱い、どの種類を軽いもの(Nit)止まりにするか」をはっきり書くことと、「報告しない種類(Do not report)」を並べることが、例つきで載っています。
重大度3段階の実例つきの書き方
「重いものは重いって書いて」とだけ頼むと、Claude Codeくんが考える「重い」の中身がばらつきます。段階ごとに実例を1つずつ添えて、なぜその段階なのかの理由もセットで書きます。
| 段階 | 実例と、その段階にした理由 |
|---|---|
| 重い | 例: 総額が明細の合計と合っていない。そのままお客さんに出したら、大きなトラブルになるから |
| 普通 | 例: 有効期限が書いていない。出す前に直せば大丈夫だから |
| 軽い | 例: 明細の並び順が、いつもの順番と違う。気にはなるけれど、そのまま出しても困らないから |
第26回の「見本」の考え方と同じで、「重い」という言葉の意味を説明するより、「重い」ものの実例を1つ見せたほうが、Claude Codeくんはそこから基準を読み取りやすくなります。
あわせて、報告の形も先に決めておくと読みやすくなります。たとえば「どこに・何が・どの重大度で・どう直せばいいか、の4つを、1つの指摘につき1行で書いて」と頼むと、あとで指摘を数えたり、重い順に並べ替えたりもできます。報告の形の話は、Season 3の中であらためてじっくり扱います。
間違った指摘が多い種類を止めるときの頼み方
見積書を何通もチェックしてもらうたびに「宛名の会社名が違います」と指摘が来て、よく見ると、ほとんどが「株式会社」を「(株)」と略して書いているだけだった——という場面の例です。全部の報告を止めずに、その種類だけを止めて、基準を直してから再開します。
- 止める: その種類の報告だけを止めてもらう。金額や期限の指摘は続けてもらう
宛名の会社名についての指摘は、しばらくしないで。
金額と期限のチェックは、これまでどおり続けて。
- 直す: 止めている間に、その種類の基準を書き直す
宛名の会社名は、別の会社の名前になっていたら報告して。
「株式会社」と「(株)」のように、略し方が違うだけなら無視していいよ。
- 再開する: 直した基準で、その種類の報告を再開してもらう
的外れな指摘がまとめて出てこなくなるので、残った大事な指摘を1つずつちゃんと読めます。種類ごとに止められるのは、基準を種類で書いておくことの強みです。
職場だけの決まりごとをCLAUDE.mdに書く例
間違った指摘の原因は、けっこうな割合で「自分の職場では普通のことを、Claude Codeくんが知らなくて、問題だと思った」というものです。こういう「うちではこれが普通」「これはOK」という決まりごとは、第7回の貼り紙、CLAUDE.mdに書いておきます。CLAUDE.mdはClaude Codeくんが毎回の作業の最初に読むので、チェックのたびに、職場の決まりごとを知っている状態から始められます。
## 見積書の決まりごと(チェックのときに問題にしないこと)
- うちの見積書は税抜の表示が基本。税込の金額は備考に書く
- A社向けの見積書は、宛名に担当者さんの名前を入れない決まり
- 会社名の「株式会社」は「(株)」と略して書いてもよい
これは、Season 2の設定の地図でお話しした「置き場所」と、Season 3の「頼み方」がつながっているところです。公式のコードチェック機能(Code Review)も、CLAUDE.mdをその作業フォルダの事情として読み、そこに書いたルールに反する変更を指摘します。
プログラムを書く人向けの補足
- 今回の「方向性ではなく基準を書く」は、コードのチェックでも同じです。たとえば「コメントが正確か確認して」より、「コメントの説明が、実際のコードの動きと食い違っているときだけ報告して」のほうが、何を報告するかがはっきりします
- 公式のCode Reviewの指示ファイル(REVIEW.md)の例には、「
scripts/の中は、ほぼ確実で重大なときだけ報告する」という確信度の線引きも載っています。これは、種類や場所を決めたうえで使う線引きです。今回の「自信で絞るより種類で絞る」は、種類を書かずに自信だけで絞る頼み方への注意で、矛盾はしません - 同じ説明には、「この種類の指摘は、根拠になるコードの場所(ファイル名と行番号)を示せるときだけ報告する」と、種類ごとに証拠を求めて間違った指摘を減らす書き方も紹介されています
※ここに書いた仕様は 2026年11月3日時点の公式ドキュメントに基づいています。Claude Code は更新が速いので、最新の情報は公式ドキュメントで確認してください。